@コンクリートの基本的なお話
ここで紹介するコンクリートのお話は、私が1999年に独立し建築家としてスタートしてからちょっと経った2002年…4件目に設計させて頂いた竜ヶ崎の家から始まります。
境界を越えて色々な人たちに読んでもらいたいので…なるべくわかりやすく読みやすくお話したいなと思います(^^ゞ
竜ヶ崎の家のご夫妻とは今でもお酒を酌み交わす仲で、完成した当時から長いお付き合いをさせて頂いてます。
当時まだコンクリートの知識があまりない私が必死で取り組んだ建築です。
勿論今でも当時と変わらない気持ちで建築には取り組んでますが、今でも竜ヶ崎の家のコンクリートは大好きです。
現在…大島功市建築研究所がつくるコンクリートはコンクリートの師匠との出会いから始まります。
(有)シマダの島田さんとの出会いです。
私が今でも頼りにしているコンクリートの師匠です。
島田さんはいつも世界最高のコンクリートをつくろうと…情熱を持って取り組んでいる方です!
当時、竜ヶ崎の家は設計が終わり施工業者さんを決めるための見積りという作業に入ってました。
工事金額が予算をオーバーしていて色々と頭を悩ませているときに、ふとしたきっかけで事務所で初めてお会いしたのが島田さんだったのです。
見積り検討の中にも含まれていた…屋根(屋上)の防水の相談でした…防水というのは雨が漏らないようにするための工事です。
竜ヶ崎の家だけでなく、これからどういう方法でいくのが一番良いのか悩んでました。
昔から…その当時でも…主流はアスファルト防水でした。このアスファルト防水はとても信頼性のある防水なのですが有機性で臭いもきつい…そんな材料でした。
そんな時に島田さんからお話頂いたのがコンクリートをつくる時に水、セメント、砂利、砂と一緒に直接入れて、躯体全体を防水しようとするコンプラストというイギリス(英国)製の材料でした。
この写真…ペットボトルに入れてクライアントの方々に実際に見て嗅いでもらうための私の必須アイテムです(^o^)
コンプラストは無機性の材料で正式名称は”非空気連行性躯体防水用減水剤”と言います。
簡単に言うと…水と空気の少ない高密度で高強度のコンクリートをつくるための材料です。コンプラストは世界各国で使われていますが日本ではあまり使われていません(T_T)
日本では標準規格として”AE減水剤”という空気連行性の減水剤が使われてますが、コンプラストは非空気連行性の減水剤です。
減水剤という名の通り、共に水を減らしてコンクリートを打設しやすくする役割はあるのですが、大きな違いは空気の考え方です。
先ほどから減水剤という言葉が出てきましたが、ここでコンクリートとの関係も含めた減水剤についてお話してみたいと思います!
現在、コンクリートを打設する時には、コンクリートをミキサー車に積んで現場に持ってきて、コンクリートを圧送するためのポンプ車に移して、現場では合体して力を合わせて(笑)このように打設します!
ポンプ車の細いホースの中をコンクリートが通る時に詰まらないようにするため、コンクリートを柔らかくするために使うのが減水剤です。
ちなみに…減水剤はポンプ車が開発されてから使われ始めました。
昔はというと…ポンプ車なんていうものはなかったので…ねこぐるまと呼ばれる手押し車にコンクリートを入れてその場所まで持って行き打設していました。
職人さんたちは大変だったとは思いますが(*_*;…実はその方がコンクリートにとっては良かったのです。
昔は細いホースを通らなくても良かったので、コンクリートは本来必要な水、セメント、砂利、砂だけでできていました。
できあがった昔のコンクリートは余計なものが入ってない…水と空気の少ない高密度で高強度の最高のコンクリートだったんだと思います。
AE減水剤はコンクリートを圧送しやすくするための水ではない液体ですが、そのかわり空気を連行してしまうことで…ちょっと大げさに言えば…ポーラスコンクリートをつくってしまったということに…(T_T)
その結果…防水という傘をささなければならなくなったのです…写真を見れば一目瞭然ですね(笑)
一方、コンプラストは空気を連行しないことで昔のコンクリートと同じ状態を保つことができていると私は思います。
コンプラストのおかげで昔の質と変わらないコンクリートを現代の方法で打設できているのです。
それはコンクリートの試験結果を見れば明らかです。
それでは次に実際のコンクリートをどういう風につくっていくかをお話したいと思います。
どの現場でもコンクリートを打設する前に必ず試験をします。
試験は以下のように進みます!
@水、セメント、砂利、砂だけでつくったプレーンコンクリートをつくる。
※水、セメント、砂利、砂の他には何も入ってないコンクリートをプレーンコンクリートと言います…本当はこれで打設したい!
Aスランプ値(コンクリートの固さの指標)が≒8〜12cmであることを確認する。
※余計なものが入ってない純粋なコンクリートはこんなに固いのです…しかし…これではポンプ車のホースが詰まりそうですね(笑)
Bコンプラストを加え実際に打設するコンクリートをつくる。
※コンプラストコンクリートは粘りがあり…表面をなでるとバターみたいな感じです(^o^)
Cスランプ値が≒18〜20cmであることを確認する。
※このくらいの固さがちょうど打設しやすいのです!
D空気量が2%前後であることを確認する。
※AE減水剤のような空気を連行する減水剤だと5%前後の空気量になってしまいます(*_*;
Eコンクリートのテストピースを4週間(28日)置いた後、圧縮強度試験にて強度を確認する。
※27Nという一般的な強度のコンクリートを使用しているにも関わらず…橋桁などの土木コンクリートと同じ強度40N前後を持つ強力なコンクリートが出来上がる!
そして…現場でも試験通りのコンクリートかどうか確認しながら、実際にコンクリートを打設していきます。
この一連の工程を毎建築毎、状況が毎回異なる現場の中で今まで続けてきました。
なかなか思い通りにいかなかったことも中にはありますが…それは次の建築に生かせるように自分なりに研究しながら一歩一歩進んできました。
コンプラストコンクリートを使い、今まで沢山の建築をつくってきました。
コンプラストコンクリートは粘りがあり鉄筋との密着性も優れているので、コンクリート建築だけでなく…木造建築の基礎にも使用してきました。
地下にも関わらず防水をせずコンプラストコンクリートの壁だけで勝負した…川越の家、秋葉町の家、フタコアパートメント、高円寺の家…はコンプラストコンクリートの長所を最大限生かし…地下室内でも打放しの壁を実現してます!
コンクリートは色々な形をつくることのできる…そして…力強い…永遠の材料だと思います。
118年から128年に掛けて、ローマ皇帝ハドリアヌスによって再建されたローマのパンテオンは現在も鉄筋などの補強のないものとしては、世界最大のコンクリート製ドームです。
ローマ帝国でのローマン・コンクリートから始まり…
1756年、イギリスの技術者ジョン・スミートンがコンクリートに水硬性石灰(骨材は小石やレンガの破片)を使うことを考案し…
1824年、ジョセフ・アスプディンがポルトランドセメントを発明し、1840年代初めには実用化されてきたコンクリート。
私の心の師匠…ル・コルビュジエがインドのチャンディーガルという都市でつくった数々の建築…開かれた手、合同庁舎、
高等裁判所、影の塔、学生会館、ガンディー記念館、等々も全てコンクリートでつくられ今なお使われ続けてます。
現在も世界中で使われているコンクリートを現代のコンクリート”コンプラストコンクリート”という形でこれからも研究を重ね、使っていきたいと考えてます。
■コンプラスト
脱糖安定処理されたリグニンスルフォン酸塩をベースとする非空気連行性減水剤(減水率12〜23%)で、余計な空気の連行がないために強度、密度を飛躍的に向上させる。
コンクリートが高密度になるために中性化の進行が遅くなり、コンクリート構造物の寿命をのばし、結果的にライフサイクル・コストを低くおさえる。
コンクリート躯体内の毛細管を閉塞させる不透水性ゲルの形成を助長し、防水性はもとより、塩害や凍結融解にも強く、収縮によるクラックを最低限に押さえる。